早期の症例登録にこだわり
~安定性高い経営を実現~
CRS研究所は昨年創立20周年を迎えた。北海道に密着したSMOとして事業は堅調に推移し、得意としている婦人科領域、それ以外の疾患領域での試験も受託している。植草友幸社長は、「受託した治験で第1症例目のエントリーにこだわってきたことが、20年間にわたって事業を継続できた要因」とした上で、「治験開始後早期にエントリーを積み重ねることで、治験全体の進行を牽引し、信頼獲得につながる。今後も既存施設とのパートナーシップを大切にしながら事業を継続していきたい」と話す。
同社の2020年2月期は稼働予定の婦人科案件が延期となったことで低調だったが、19年2月期は非常に好調だった。19年2月期まで5年連続の黒字決算を達成し、大幅な税引き後利益を生み出している。植草氏も「安定性の高い経営体制を実現できている」と話す。
婦人科領域の案件では症例登録世界1、2位となった子宮筋腫を対象とした大規模試験は中止が決まったものの、フォローアップ検査が必要で治験コーディネーター(CRC)業務は継続している。新規案件では19年に子宮筋腫、子宮内膜症、貧血と複数試験を受託し、20年は新たな子宮内膜症を対象とした治験を実施している。
婦人科以外では神経内科領域では片頭痛を対象とした三つの試験がほぼ終了し、20年から小児の片頭痛を対象とした二つの試験を実施する予定である。整形外科領域では難易度が高い関節軟骨損傷を対象とした医療機器の治験を前相から引き続き受託している。
1999年に創業した同社は、臨床試験の本質を守り、変化に対応していく上で、“speed with quality”、“Think globally but act locally”を常に意識し、昨年に創立20周年を迎えた。受託した治験では世界初症例を追求し、提携施設やCRCとも目標を共有してきた結果、多くの試験で提携施設の世界最速エントリーを達成してきた。
植草氏は、「1例目がいつ入るかでそのプロジェクトの成否を決め、早期にエントリーを積み重ねることで試験全体の進行を牽引することができる。1日でも早くエントリーさせることが評価基準となったことで、依頼者からの一定の信頼につながった」と話す。
治験の品質維持に向けては、リスクベースドモニタリングに対応し、施設側で実施した治験業務を文書化し、プロセスの可視化に向けた取り組みを行っている。
人材面では、変化する世界での医薬品開発環境を見据え、日本でCRC業務を行う必要性を鑑み、設立当初から英語の治験関連文書をきちんと解釈できるCRCを育成してきた。現在では勤務年数15年以上をはじめとする経験豊富なCRCを揃えることができた。
植草氏は、日本での臨床開発を活性化していくためには健全な業界環境が必要との認識を示す。SMO業界では症例ベースでの完全出来高契約が一時期主流となり、症例エントリーでCRCに対する重圧が増大した結果、データ改ざんなど不適切事案を引き起こした。
こうした状況から、「たとえエントリーがゼロであっても人件費などの固定的経費が必要。データ品質にも影響を及ぼさないような契約形態にしないといけない」とSMOに対するコストのあり方に言及。その上で、「この数年来、固定的経費に関する治験依頼者の理解も進みつつあり、徐々にではあるが小規模SMOでも継続的に事業を行うことができる環境も整いつつある」と話す。