施設の管理マニュアル作成
~CRCがRBM動かす~
SMOのCRS研究所は、産婦人科領域の治験が多く稼働し、昨年度は創立17年目で過去2番目に良い好業績となった。今年のテーマは、医療機関におけるリスクベースドモニタリング(RBM)の対応強化。子宮筋腫の治験で本格導入する予定で、このほど、医療機関側でのRBMに対応した業務手順として、「治験プロセス管理マニュアル」を作成した。植草友幸社長は、今年をRBMの出発点と位置づけ、「将来的には治験コーディネーター(CRC)の“暗黙知”をプロセスの中に反映させ、医療機関での質の高いプロセス管理を実現したい」と強調。CRC主導でRBMの仕組みを確立する。
SMOを取り巻く環境が厳しい逆風がある中、同社は好業績を達成した。得意とする産婦人科領域では、子宮線筋症、子宮筋腫、月経困難症といった治験が牽引した。子宮筋腫を対象とした国際共同治験では、提携施設のはしもとクリニック、吉尾医院が12例ずつの24例と日本での症例数全体のうち3分の1以上を集積している。
(子宮筋腫を対象とした国際共同治験では、提携施設のはしもとクリニック、吉尾医院の2施設で、日本での症例数全体のうち3分の1以上を集積している。)
月経困難症の治験では、試験全体の目標症例数のうち、約3割となる72症例を組み入れる計画だったが、わずかに目標に届かなかった。植草氏は「目標には届かなかったが、はしもとクリニックで36例と全国でトップの組み入れを果たした事もあり、満足できる結果」と評価する。また別の月経困難症を対象とした第Ⅱ相試験では、当初50症例の目標を上回る成果が得られた。
今年はCRS研究所にとって、“RBM元年”。植草氏自ら、製薬企業に対してRBM導入に向けたプレゼンテーションを行い、子宮筋腫80例を対象とした治験を受託した。
昨年夏から、RBMの本格導入に向けた準備を進め、このほど、医療機関側での治験実施手順を定め、そこでCRCが何を行うべきかを列挙した「治験プロセス管理マニュアル」を作成した。これまで見えづらかった医療機関側での治験プロセスの可視化が狙いだ。
植草氏は、「治験全体の流れの中で、医療機関側が行うプロセス管理として、誰が、いつ、どういう行動を取るべきかをマニュアルの中で具体的に明示した。大事なのは医療機関で発生する情報を漏らさずに記録すること。当社では、CRCが被験者から必要な情報を聞き取ってワークシートに記録し、医師に確認を取ってもらう手順にした」と話す。治験を実施する前に、誰がいつどのような処理をするのかを明確にし、マニュアルに基づき業務を行い、治験の中で起こったことはきちんと記録していくという仕組みだ。
RBMを運用していく上では、CRC全員の共通理解が必要。同社では2月に、オフサイト・ミーティングを開催し、治験に対する心構えや、情報共有の重要性、CRAとの関係性、コンプライアンス対応、RBMの概要、導入する目的、今回導入する子宮筋腫の治験で何をすべきかなど、基本的な事項から実践的なところまでを共有していく社内勉強会を実施。RBMへの意識付けに着手した。
治験の中のプロセス管理とは、正しいデータが得られたかを確かめるよりも、正しいデータを得るための過程がきちんと行われているかを確かめていくことにある。今まさにCRCへの意識改革に取り組んでいる段階にあり、出発点に立ったばかり。経験を積むことで、現場からより適したプロセス管理手法へと仕上げていく。植草氏は「マニュアルを運用していく中で、CRCが持っている暗黙知をプロセスに可視化していく形が望ましい」と期待する。
その上で、治験依頼者に対しても、「プロセス管理の精度を高め、原資料と症例報告書を照合するSDVの工数をなくしていけるようにしたい」と話す。現場のCRCがRBMを動かしていく体制づくりを目指している。